南アルプス全山縦走

こんにちは。またも34期のひさみつです。
もう2ヶ月前となってしまいましたが、9月上旬から中旬にかけて、雷鳥としては10年ぶりとなる南アルプス全山縦走山行が行われました。
参加メンバーは僕を含めて男4人。光岳から12泊13日の行程で、はるか鳳凰三山を目指す道のりは、困難も多々ありましたが、それ以上に楽しく、充実した日々となりました。

出発は9月6日でした。東京から中央線と飯田線を乗り継ぎ、平岡駅からタクシーで北又渡、更に林道を徒歩で2時間。登山口の易老渡までは丸一日の行程でした。

初日、9月7日は雨の中のスタートでした。30kg近い重装備を背負って高低差1700mの登りは大変厳しいものでしたが、稜線に出る頃には晴れ間ものぞきだしました。ぬかるみがちな樹林帯の稜線を進むと、静高平から次第に植生も開け、森林限界上の木道を進むと光岳小屋に到着します。光岳小屋にザックを下ろしたあと、光岳を通って光岩まで往復しました。

光岳を過ぎたところから望む光岩と南アルプス深南部の風景です。深い森が広がります。
光岳小屋では、山岳ガイドをしていらっしゃるMさんという方と出会いました。様々な面白いお話を伺った上、たくさんの差し入れを頂いてしまいました。あの時飲んだ梅酒の味は忘れられません。


2日目、光岳を後にして聖平小屋へ向かいました。写真は光岳付近の木道から見る朝焼けです。見たこともないほどきれいな光加減でした。
前日に通った樹林帯の道を引き返し、北上します。次第に稜線は高度を上げ、再び森林限界を超えて仁田岳、茶臼岳、上河内岳などの峰々を通過した後、聖平小屋に到着しました。聖平小屋では「ウェルカムデザート」のフルーツポンチを頂いた上に、シーズン終了間際ということで売れ残りのラーメンやジュース等を頂いてしまい、一同感激しました。トイレはなんと水洗で、テント場にはそれぞれのブースに物干し竿とベンチがついているという、これまでに経験したことのないほど至れり尽くせりの小屋でした。

3日目は聖平小屋から聖岳を越えて、百間洞山の家までのハードな行程でした。

聖岳までの急登をこなしたあとは、聖岳山頂からは奥聖岳までピストンします。

更に先には兎岳、小兎岳、中盛丸山が待ち構えます。これらのピークを全て踏んで百間洞山の家に到着した頃には大分バテてしまいました。
4日目から6日目までは比較的楽な行程で、各日標準コースタイムで6時間程度の道のりを赤石岳荒川岳を通りながら山伏峠まで進みました。5日目には大分ガスが出ましたが、大きな天候の崩れはなく、6日目には快晴の中最高の展望を望めました。赤石岳はどっしりとした山容が、荒川岳はガスの中聳える峻厳な悪沢岳が印象的でした。
5日目に宿泊した高山裏避難小屋では、信州大学のパーティーとともに楽しい一時を過ごしました。既に異臭を放ちつつあった我々としては、かなりご迷惑をお掛けしてしまった気がしないでもない…
個人的に印象に残ったのは6日目の小河内岳で、近くには塩見岳の威容が迫り、南は光岳から北は甲斐駒ヶ岳まで、これまで通ってきた長い道のりと、まだまだ残るこれからの稜線の全貌が見通せる最高の展望台でした。

7日目からはいよいよ南アルプス北部に突入します。塩見岳を超えたあと、北に長く延びる仙塩尾根を延々と進みました。仙塩尾根は所々に開けた草原が広がり、のどかで美しい道でした。
8日目には熊の平小屋から間ノ岳をトラバースし、白峰三山に入ります。農鳥小屋にザックをデポし、広河内岳までピストンしました。

広河内岳は、目の前に塩見を望む好展望の山でした。この先の白峰南嶺も、いつかは行ってみたいものです。

9日目には間ノ岳北岳を越えたあと一旦両俣小屋へ下ります。数年前の台風以来バリエーションルートと化してしまった両股ルートは、かなり荒れており通行に苦労しました。

10日目は再び仙塩尾根に戻り、仙丈ヶ岳を越えた後北沢峠に下ります。仙塩尾根は最初、樹林帯の中のパッとしない道が続きますが、森林限界を越えた後半は目の前に仙丈ヶ岳の美しい姿を見ながらの緩やかな登りとなり、この山行の中でもお気に入りの場所となりました。

仙丈ヶ岳から甲斐駒ヶ岳方面を望んだところです。手前にははっきりとしたカール地形が見られます。

11日目には仙水小屋から仙水峠を経て、甲斐駒ヶ岳をピストンしました。

甲斐駒ヶ岳から甲府方面は一面の雲海で、鳳凰三山が幻想的な姿を見せていました。北アルプスの山々や八ヶ岳もはっきりと見ることが出来ました。
仙水峠に戻ると、早川尾根を延々と進みます。早川尾根に入るとそれまでの喧噪から打って変わって静かな山になります。張り出したハイマツのうるさい道が続きますが、アサヨ峰をはじめ、隠れた秀峰のある稜線であるように思います。ガスに隠されてしまい、甲府盆地方面への展望がなかったのは残念でした。


12日目には鳳凰三山に渡りました。松と一面の白砂に覆われた稜線は、さながら砂浜にいるかのような錯覚を起こさせます。この日の夕食は山行中最後の夜ということで、余った予備食を皆で盛大に食しました。

そして最終日、13日目に夜叉神峠へ下山しました。夜叉神峠よりバス停へ下る最後の最後で、初日に光岳小屋で出会ったMさんご一行とすれ違い、感動の再会を果たしました。

舗装道路があり、電気があり、ガスがあり…の下界は、2週間ぶりに下山すると、まるで異世界に来たような感覚を覚えました。甲府で2週間分の垢を落とし、山行中切望したトンカツを食した後、各自帰宅しました。

長期縦走は一見困難であるように思われるかもしれません。確かに最初の数日は重い荷物にひたすら喘ぐ、辛い道のりでした。しかし、特別な技術を要するわけではありませんし、何よりも連日好天の下、美しい風景を眺めながら2週間ひたすら南アルプスの稜線を歩き続けた体験は、それ以上に大きな満足感と達成感を与えてくれるものでした。大学生というこの時期だからこそ許される、この上なく贅沢な時間の使い方だと思います。Mさん、信州大の皆さんをはじめ、道中応援してくださった多くの方々にお礼申し上げます。
いずれは皆さんも長期縦走、挑戦してみませんか?